Dissertation
Silk Jacquard Fabric / シルクジャカード
絹糸は極めて細い動物繊維であり、頭髪1本が50~60デニール(糸の太さの単位)に対し、絹糸は最も細いもので2〜3デニール、それを撚り合せてようやく数十デニールになる。その細さから密度の高い織りを生かした美しい柄と風合いが生まれる一方、取り扱いが難しいという面がある。
Category: | Material |
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Date: | 2023.08.01 |
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Tags: | #fabric #fw23 #silk #silkjacquard #visvim #シルクジャカード #ジャカード織り |
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蚕の繭から取られる絹糸(シルク)は、蚕が吐き出すたんぱく質からなる一本の糸で、その長さは約1,500メートルにもなる。張りがあり強度が高く、美しさとしなやかさを持ちながら吸水性・透湿性に優れる絹糸の織物は、優雅な光沢や柔らかい肌触りを持つ高級品として古くから人々を惹きつけてきた。
京都府の西陣、群馬県の桐生などと並ぶ絹織物の産地として知られる山形県の米沢、そのルーツは江戸時代に遡る。第9代米沢藩主・上杉治憲(鷹山公)が藩の財政改革として武家中の婦女子らに機織りを習得させ、京都などの上方へ輸出を開始し、これが後に「米沢織」として知られることになった。
明治の開国後は海外への輸出も始まり、織物産業都市として発展。現在も多くの織物に関わる企業や工房が集まる米沢で、絹織物を中心にした服地の製造を手がける「行方工業有限会社」は明治28年創業。その工房では、絹糸を織機にセットするため経糸(たていと)を必要な長さと本数に揃える「整経」の作業が昔ながらの方法で行われている。
絹糸は極めて細い動物繊維であり、頭髪1本が50~60デニール(糸の太さの単位)に対し、絹糸は最も細いもので2〜3デニール、それを撚り合せてようやく数十デニールになる。その細さから密度の高い織りを生かした美しい柄と風合いが生まれる一方、取り扱いが難しいという面がある。
こういった絹糸の特性上、絹織物では糸を織機にかける以前に大変に長い準備工程が必要となる。整経作業に入る前には、まず染め上がった綛状の絹糸を糸枠に小分けして巻き取っていく「糸割り」と呼ばれる仕込み作業が行われる。糸割りを終えたら、10平米程度の床スペースに薄く砂を敷き詰めた砂場の上に、経糸を巻き取った六角形の糸枠を200本ほど(本数は織物の巾によって変わる)揃えて並べる。それぞれの糸枠から引き出した1本1本の経糸を集め、粗筬(あらおさ)と呼ばれる大きな櫛の目に糸を通した上で巻き取っていく。こうした工程と技法のほとんどが、100年以上も前から変わらず続けられてきたものだ。現代では一般的にボビンを使い大量の経糸を高速でドラムに巻きつける整経機が使われるが、少量ロットでの生産の場合、こうした古来の方法でも対応が可能だという。木枠の下に砂を敷くのは、整経作業がストップした際に張り詰めていた糸が落ちて垂れ下がり、絡んで切れたりしてしまわないための工夫。木枠の形状やサイズもまた先人たちが長い経験から導き出したものだ。
こうして整経された経糸と緯糸は、織機にかけて織り上げられる。明治43年創業の織元「株式会社安部吉」では、繊細な絹糸が荒れたり切れてしまったりしないよう職人が常に気を配りながら、複雑な柄を表現するジャカード織の織機を動かしている。
こうした絹糸のジャカード織りについて、〈visvim〉クリエイティブディレクター・中村ヒロキは「デコラティブな女性向け衣料のイメージが強く、当初はあまり目が向いていなかった」と語る。「だけど古いアーカイブを見ていくうちに、武将の甲冑の裏地や刀の鞘袋などのディテールで絹織物が使われていると知り、興味を惹かれるようになりました。機能に優れた天然素材としてのシルクと、その特性に合わせて培われてきた織物の技法に魅力を感じています」。
文:井出幸亮
写真、動画:深水敬介
動画編集:cubism