Dissertation
Aigata (Natural Indigo Stencil Dyeing) / 藍型
江戸時代に「藍型」で染められた一枚の布がある。数年前に骨董市で手に入れたもので、その色合いは、濁りのない藍色が幾重にも重なり、深く澄んで美しい。そして、手彫りの伊勢型紙を使って施された柄はシンプルでありながら繊細で、独特な風合いがある。
Category: | Processing |
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Date: | 2023.08.15 |
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Tags: | #aigata #fw23 #indigo #naturaldyeing #naturalindigostencildyeing #visvim #伊勢型紙 #藍型 #藍染め |
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丁寧な手仕事のレイヤーが生み出す人間らしさ
江戸時代に「藍型」で染められた一枚の布がある。数年前に骨董市で手に入れたもので、その色合いは、濁りのない藍色が幾重にも重なり、深く澄んで美しい。そして、手彫りの伊勢型紙を使って施された柄はシンプルでありながら繊細で、独特な風合いがある。
日本の伝統的な染色法の一つである藍型は、絵柄を彫り抜いた型紙を使って糊を置き、藍染めした後で糊を洗い落として絵柄を染め残す防染の技法。この布に惹きつけられるのはなぜだろう。素材の風合い、本藍の色、柄の出方。その魅力を紐解き、現代の素材・技術によって、同じような温かみや奥行きのあるプロダクトを表現することはできないだろうか。
協力してくれたのは、10年以上前から〈visvim〉の多くの商品を染め上げてきた東京・青梅市にある藍染工房「壺草苑(こそうえん)」の職人、村田徳行さん。村田さんの藍は、徳島の藍師が作る蒅(すくも)を自然由来の灰汁で醗酵させる「天然灰汁醗酵建て」。江戸時代に確立された技法ではあるが、天然素材ゆえ確かな方法はなく、うまく醗酵させるには気温や湿度、藍や灰汁の状態を見極める知識や経験が必要とされる。村田さんは、その色合いに魅せられ「天然灰汁醗酵建て」の藍だけにこだわり続け技術を高めてきた。
>藍染めについて詳しくは「Dissertation: Aizome (Natural Indigo Dyeing) / 藍染め」参照
素材はインドのカディ。手紡ぎ、手織りの綿織物で、粗野な不均一さが魅力の素材であるが、染めの工程においてはそれが難点でもある。反が違えば質感や厚みが大きく異なるのはもちろん、バンダナ大の生地一枚の中でも緯糸が切り替わる位置で染まり方が大きく変わってしまうこともある。
素材を落ち着かせるための下洗いの回数、型紙の種類や厚み、糊の材料、糊置きの回数など、あらゆる方法を試すことから始めていった。
型紙は、柿渋染めした和紙を数枚貼り合わせた厚手の伊勢型紙を、村田さん自らが柄の立ち方を考えながら彫ったもの。糊はもちこと糠(ぬか)に乾燥させた時の割れを防ぐための塩を加える。「糊作りは紺屋の企業秘密」と言われるくらい、材料、配合、濃度すべてに職人の知恵と工夫が詰まっており、糊次第で柄の出方が大きく違ってくるという。
バンダナサイズにカットした生地をゆがまないように板に張りつけ、そこへ型紙の上から箆を使って糊を置いていく。糊が乾いたら再度同じ型紙で二度目の糊置き。この間、型紙に縮みが出ないように常に霧吹きで湿った状態を保ちながら作業を行う。ぷっくりと膨らむくらいに糊を置くのは、柄が浮き出る白場をきれいに際立たせるため。その上に挽き粉(杉やヒノキのおが屑)をふり、糊の強度をあげる。型紙の状態と糊の乾き具合が大事なこの工程では、工房内の湿度にも気を配り、何より素早く正確に仕上げなければならない。
糊が乾いたところで、糊付けした生地をお湯、水の順に通した後、藍染めの工程にはいる。通常、藍染めは藍の中で生地を揉みながら染料を糸に浸透させるが、型染めの場合、糊付けしている生地に触れることはできないため、藍の状態が良くないとうまく染まらない。
染めムラの原因になる藍の華(発酵した泡のかたまり)を取り除き、表面を整えてから生地を7枚ずつ専用のフックに吊るした状態で甕の中に落としていく。初回は生地の水分量を調整するために1分間ざっと沈めて一度引き上げる。その後、6分間甕の中に沈め、引き上げて10分間空気に触れさせて酸化させる。2回目以降は7分間沈めて、10分間の酸化。この工程を薄い色で3回、濃い色で9回繰り返す。
この染色の工程「甕に落とす」、「引き上げる」を繰り返すと、生地の上下で染料の溜まり方や酸化の具合に偏りが出てしまうため、工程の途中で生地の上下を反転させる。糊が剥げ落ちたりしないように反転させるのは、神経を使う手間のかかる作業だがムラなく染め上げるために不可欠な工程。
最後の酸化が終わったら生地をお湯につけて糊を落とし、入念に水で洗う。その後、灰汁(あく)に半日浸して天日に干す。天日に晒すことによって余計な茶色のタンニンがなくなり澄んだ藍色が浮かび上がってくる。
「ひとつひとつ丁寧に行うのが実は一番効率がいい」と村田さんは言う。求められた色合いを表現するために試行錯誤してたどり着いた最適な方法は、江戸時代から続く古典的な技法だったと教えてくれた。
手で描いた原画をもとに、手で彫りあげた型紙を使い、手作業で染めあげる。均一な美しさを求めて丁寧に手仕事を重ねていく、こうした仕事に向き合う真摯な姿勢がコントロールできない僅かな不均一さを生み出し、そこに職人の個性や人間性のようなものが表われる。
現代のモノづくりはあらゆる技術や設備を駆使して、より均一な商品をつくることができるようになったが、その中で〈visvim〉は「どうやったら商品に人間らしさを反映できるか」を考え続けている。
写真、動画:阿部健