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Dissertation

Patina / パティーナ

パティーナとは、銅が酸化したときに見られる緑色の錆のこと。その表情は多くの人に魅力的なものと受け入れられ、そこから「美しい経年変化」というもう一つの意味が生まれました。

Category:Philosophy
Date:2014.08.09
Tags: #fw14 #patina #visvim

パティーナとは、銅が酸化したときに見られる緑色の錆のこと。その表情は多くの人に魅力的なものと受け入れられ、そこから「美しい経年変化」というもう一つの意味が生まれました。

その考え方は気に入ったのですが、言葉の使われ方には何かが欠けているような気がしました。そして、2014年秋冬コレクションのデザインに取り組みながら、自分自身の「パティーナ」の定義を考え始めました。最終的に行き着いた考えは今シーズンのテーマの核となったのですが、そこへ行き着くきっかけは意外な所からもたらされたものでした。

 

オハイオ州の老朽化した納屋で、長年置き去りにされた古いバイクを見つけました。そのほとんどは錆びつき、赤くペイントされたボディは埃を被っていました。エンジンはかかるのかということはもちろん、まっすぐ進むのかということさえ疑いました。その埃まみれのバイクを眺めていると、なんだか悲しい気持ちになり、少し手をかけたらどう見えるだろうかと想像しました。ぼんやりとしたイメージは少しずつはっきりとしていきます。そして次の日、カリフォルニアへの帰り道でボクはその錆びた古いバイクを牽引していました。

 

LAに戻ってすぐにバイクを洗い錆を取り始めました。きつい作業でしたが、見た目の大きな変化を目の当たりにするのはよい経験でした。捨てられていた金属の塊が、キャラクターのある、温もりに溢れた美しいバイクに変化していく。ペイントの塗り直しやパーツ交換はせず、ただ、自分の手でできる範囲のことをバイクに施しました。そして、「パティーナ」という言葉が持つ意味合いを再度考えました。ボクにとって「パティーナ」は受け身なものではありません。道すがら出会ったそのバイクに表れていた受動的な経年による劣化は、美しさではなく、再びもたらされた美しさは意識的に手をかけたことによるものでした。

 

あのバイクのように、手をかけることで美しく変化するプロダクトを作りたい。手入れされたものと、そうでないものとでは全く違う表情になる。レザーブーツやデニムジャケットの方が想像しやすいかもしれませんが、これは、人に置き換えても同じだと思っています。内面は外見に反映されるので、自分を磨くということを常に自覚していなければなりません。デザインのプロセスを通してそれぞれのアイテムに愛情を注ぐことが、この哲学をプロダクトへ反映させる方法です。

 

つまり、天然素材や染色技術を使い、パターンからでも生地からでもなく、糸からプロダクトをデザインするということ。糸のデザインや構造に力を注いでも、その結果をすぐに見ることはできないかも知れません。しかし、プロダクトの内側にある糸へかけた努力は時間とともにゆっくりと表れてきます。

 

ボクが思う「パティーナ」の定義を満たすには愛情が必要です。デザイナーとして、自分のプロダクトの全ての開発段階で想いを込めていますが、より根本的に考えると「パティーナ」は人となりによるものと言えます。自分を大切にし他人を思いやる。このシンプルな考え方が美しく歳を重ねる人々を生み、そして、そういう人たちのみが美しいプロダクトを作ることができると考えています。

Dissertation on "patina"

visvim Fall and Winter 2014