Dissertation
visvim Fall and Winter 2024
毎シーズンのコレクションのテーマについては、無理に捻り出したようなものでなく、その時々の暮らしの中で日々感じていることや大切だと思うことをキーワードにしています。今シーズンのテーマ「in an Intuitive Manner(直感的)」では、まさにそうした「自分の感覚に向き合うこと」に改めてフォーカスしたいと考えました。
Category: | Philosophy |
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Date: | 2024.07.30 |
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Tags: | #fw24 #TobeIntuitive #visvim #直感的であること。 |
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直感的であること。
毎シーズンのコレクションのテーマについては、無理に捻り出したようなものでなく、その時々の暮らしの中で日々感じていることや大切だと思うことをキーワードにしています。今シーズンのテーマ「in an Intuitive Manner(直感的)」では、まさにそうした「自分の感覚に向き合うこと」に改めてフォーカスしたいと考えました。
僕たちは毎日の生活のあらゆる場面でさまざまな選択をしていますが、その際に外部から情報がたくさん入ってくると、自分の心や体が本当に求めているものがわからなくなってしまうように思います。自分自身が惹かれるもの、素敵だと感じるものを生み出すには、頭で考えすぎるのでなく、「本能」の部分にアクセスしなければならない。そのために、できるだけ自然に近い環境で体を動かしたり、リアルな風や光などに触れたりして、五感を活性化させる必要があると思っています。
そうして感覚に向き合うプロセスを続けてきた中で、自分が美しいとか素敵だと感じるものが、天然の素材や自然に近い技法で作られるものだということがわかってきた。そのようなものを作ろうと先に決めていたのでなく、自分の中を探っていった結果として辿り着いたということなんです。
今シーズンでは、近年取り組んでいるシルク(絹)を使ってコーチジャケット(*1)とブルゾン(*2)を作りました。蚕の繭玉から取られる生糸を原料とするシルクは暖かくて肌触りがよく、何百年も前から着物をはじめさまざまな用途で使われてきた機能的な素材です。美しい光沢と柔らかいドレープを持つこのシルクを、ナイロン的な素材感として現代的に表現してみたいと考えました。シルクの綛染めによって生まれる染め斑を活かすことで、生地に深い奥行きが生まれました。
インサレーション(*3)に使用した「真綿」も、繭を熱水で処理し、引き伸ばして加工したシルクの一種です。真綿を重ねることによりできる空気の層が保温性を高め、ダウン(羽毛)ほどかさばらず、柔らかく身体に沿いながら動くことで摩擦熱がしっかり温めてくれる。吸湿性も高く汗をかいても湿気を外に逃がしてくれることから、日本では古くから布団の中材として使われてきました。風邪をひいたときには、真綿のふとんにくるまって寝る。こうした知識や技術は、学校で教えられるようなことではない、家庭の中で昔から受け継がれてきた生活の知恵ですよね。
今回作った「カシミアの腹巻き」(*4)もそうしたアイテムのひとつ。僕も小さい頃、お祖母ちゃんから「お腹を冷やしちゃ駄目よ」とよく言われたものです。武道にも腹部を指す「丹田」という言葉がありますよね。現代ではファスティングをはじめ、人間の健康における胃腸の重要性が指摘されていますが、そうした科学的な検証のはるか昔から、人は生活の中でお腹の大切さを直感的に知っていたんでしょう。そういえば、日本語では「腹が立つ」とか「腹に落ちる」、「腹をくくる」、「腹を割る」など、お腹と心理にまつわる表現がたくさんありますよね。それだけ身体と精神のつながりが意識されていたということ。生活様式が現代的に変化する中で、だんだんと忘れられつつあるようなこうした技法や知恵を、現代の生活につなげたい。ただ古いものを表面的にコピーするのでなく、今を生きる僕たちにとって美しく感じられたり、日々の生活を心地よくするものとして、自分なりに進化させていきたいと思っています。
*1: 0124205013010 COACH DOWN JKT, 0124205013011 COACH JKT
*2: 0124205013013 HACKETT SWING TOP
*3: 0124205013007 THORSON JKT (MAWATA SILK), 0124205013012 BOWER SWING TOP (MAWATA SILK)
*4: 0124203003009 MIDSECTION INSULATOR (CASHMERE)
文:井出幸亮
写真:深水敬介
Dissertation on In An Intuitive Manner
visvim Fall and Winter 2024