Dissertation
CEVIAN-ORI / 瀬美庵織
古くから絹織物などを中心とした繊維産業が盛んな京都府綾部市。日本を代表する繊維メーカー「グンゼ」の創業地としても知られるこの街で生まれたのが、紙布の一つである「瀬美庵織(せびあんおり)」という織物です。
Category: | Material |
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Date: | 2020.03.24 |
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Tags: | #cevianori #visvim #瀬美庵織 |
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古くから絹織物などを中心とした繊維産業が盛んな京都府綾部市。日本を代表する繊維メーカー「グンゼ」の創業地としても知られるこの街で生まれたのが、紙布の一つである「瀬美庵織(せびあんおり)」という織物です。
1976年、元々「グンゼ」の社員で糸の研究をしていた故・梅原啓治さんが考案したこの織物は、綾部市北部の伝統工芸品である「黒谷和紙」を細く裂いて繋いだものを緯糸として織り込んだ和紙織物で、綾部市内を流れる由良川の「瀬」の「美」しさを生地に写すように、自宅の茶室横にあった「庵」で「織」り上げた生地というのがその名の由来。梅原さんが、市内の「安国寺」に伝わる700年以上前の古文書を見せてもらった際に、それがほとんど劣化していなかったことから、同じ和紙(黒谷和紙)を糸に見立てて織ってみたらどうだろうと研究を重ねて生まれたこの生地は、和紙特有の光沢のある表情と、丈夫なだけでなく、通気性や防虫、抗菌などにも優れた耐久性を持っていました。
梅原さんが50年近く前に織り上げた生地は、いまも当時と変わらない風合いを保っています。その生地で仕立てた作務衣を羽織り、手織り機に向き合っているのが、「瀬美庵織」の技術を継承し普及に努める梅原さんの孫の淺田佑治さん。
「瀬美庵織」は、緯糸である和紙を切れないように慎重に経糸の間に通して、何度も打ちつけるように織り込んでいくため非常に時間がかかり、慣れた職人であっても1時間に8cm、1日に60cm程度織り上げるのが限界と言います。生産性を上げるべく機械式の力織機での試作にも取り組みましたが、和紙が切れてうまく仕上がらず、また、たとえ少し織れても風合いが損なわれてしまうため、いまでも手織りのみで生産を続けています。
時間も労力もかかりますが、地道に丁寧に織り込んでいくことが生地を丈夫にし、綿布と同じように洗濯できるという紙布としては稀有な実用性にも繋がっているのです。また、手仕事のムラのある力加減が、織り込んだ時の和紙の潰れ具合を不均一に仕上げ、生地に個性的な表情をもたらします。
もともとあった工芸品や職人の確かな技術を活かして、それまでとは異なる組み合わせで新しい物を作る。これまで、数多くの伝統工芸の技術を商品開発に取り入れてきましたが、それらは単に長い歴史を持っているから優れているというわけではありません。比較的新しく生まれたモノの中にも、優れた技術や面白いアイデア、モノとしての美しさを見ることはできます。