Dissertation
Fiber / ファイバー
「繊維(fiber)」とは細くしなやかな糸状の物質のこと。あらゆる織物の原料となる糸は、現在は科学的プロセスにより人工的に作られたものも多いですが、そうした技術が誕生する以前は、ほぼすべてがさまざまな植物の繊維を素材としてきました。
Category: | Material |
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Date: | 2017.02.07 |
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Tags: | #fiber #visvim #繊維 |
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「繊維(fiber)」とは細くしなやかな糸状の物質のこと。あらゆる織物の原料となる糸は、現在は科学的プロセスにより人工的に作られたものも多いですが、そうした技術が誕生する以前は、ほぼすべてがさまざまな植物の繊維を素材としてきました。はるか古代より人間は植物の繊維を自ら手で撚り、「手紡ぎ」による紡績を行ってきましたが、10世紀頃には「糸車」が登場、18世紀にはイギリスで自動織機が発明されて産業革命を飛躍させ、技術革新は進みました。こうした現代的な紡績が主流になる以前に紡がれた繊維は、人間の暮らしに欠かせなかった繊維の長い歴史を思い起こさせます。
近代以前、例えば江戸時代には庶民も綿を着るようになりましたが、東北など木綿の入手の難しい地域では、野良着などのワークウェアには丈夫で通気性の良い大麻、苧麻(ちょま)などの麻が使われていました。こうした織物は長さの不揃いな繊維をそのまま手で撚っていたので、糸の表面に不均一な凹凸があります。一方、現代の紡績では繊維をすべて短く切り揃えて糸を紡ぐため、どこまで行っても糸の太さは同じ。この違いは当然、織物にした時にも生地感に差を生みます。現代の通常の紡績糸によるものはフラットでのっぺりとした表情、古い紡績糸のものはざらりとして陰影と奥行きのある表情。こうした不均一な織物の醸し出す風合いには何とも言えない魅力があります。これまで、あえて繊維長の違う糸をランダムにブレンドして使ったり、また経糸に麻、緯糸に綿を使って織るなどさまざまな形でそのエッセンスを現代のプロダクトに取り入れてきました。
日本の伝統的な繊維のひとつとして広く使われ、イラクサ科の多年草の茎の皮から取った繊維「苧麻」や、アイヌの伝統衣装でみられるニレ科の落葉高木の樹皮から取った繊維「オヒョウ」を使用したプロダクト。また、衣服そのものの生地として使用するのはもちろんですが、大麻や苧麻の繊維を手で撚って作った紐や縄は、様々なプロダクトの付属品、パーツとしても使用してきました。
織物の中でも絹など高級なものはスポットライトを浴びることが多いですが、大衆の生活に密着した麻などのユーティリティウェアは振り返られることが少ない。しかし、実はそこに美しいものがあるのです。繊維を少しずつ手で紡ぎ、時間をかけて作った布を庶民は大切にしただろうし、だからこそ愛着を持って使っていたはずです。そういう思いも現代に伝えていきたいと思っています。