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Dissertation

Chusen / 注染

静岡県・浜松市は江戸時代から続く日本有数の綿織物の産地。「遠州綿紬」の名で知られる織物は庶民の生活着として古くから愛されてきた。その浜松市で、100年以上受け継がれる日本独自の染色技法がある。

Category:Processing
Date:2016.08.16
Tags: #chusen #visvim #注染

100年受け継がれる染色技法の「滲み」と「ぼかし」。

静岡県・浜松市は江戸時代から続く日本有数の綿織物の産地。「遠州綿紬」の名で知られる織物は庶民の生活着として古くから愛されてきた。その浜松市で、100年以上受け継がれる日本独自の染色技法がある。生地を染める際、染料をジョウロ型の道具で"注ぐ"ことから名付けられた「注染(ちゅうせん)」は、特定の部分を特殊な糊で防染した上で、生地の上から染料を注いで模様を染め上げる「型染め」の技法。すべて職人による手作業で染め上げられるその色柄は、独特の「滲み」や「ぼかし」による柔らかな味わいが特徴だ。

注染の技術は明治時代に大阪で開発され、浜松に伝わったとされる。当初は手ぬぐい染めの手法として普及したが、大正12年の関東大震災を機に首都圏から「浴衣」の生産に携わる多くの職人たちが遠州(静岡県西部)地域に移り住んだことから、注染による浴衣染めが盛んになった。

浴衣の生産は昭和30年代にピークを迎えたが、その後はライフスタイルの変化や安価な海外製品の増加により生産量が減少。注染を手掛ける工場も少なくなり、かつて同地域に100軒ほどあった工場は今やわずか数軒となっている。

「株式会社二橋染工場」は昭和2年の創業以来、現在まで多くの高級注染製品を手掛ける染色会社。晒し(漂白)、染め、乾燥、仕上げまでの染色加工の工程を一貫して手がけ、その技術を現代に受け継いでいる。工場内では日々、職人たちが黙々と生地と染料に向き合っている。

布に型紙を乗せ、粘土・もち粉・海藻などを混ぜて作る防染糊をへらで繰り返し塗り、絵柄を生地に写す。糊付けした布を注染台に乗せ、"ヤカン"と呼ばれる道具で染料を注いだら、下からコンプレッサー(真空ポンプ)で吸引し、重なった生地に染料を貫通させ染み込ませる。これを繰り返すことで、裏表がまったく同じ柄、同じ濃さの反物ができあがる。染め上がった布は水洗いされ、干し場の天井から長い布を垂らして自然乾燥。その後、生地を伸ばして裁断する仕上げの工程へと進む。

染料の調合や色の滲み具合、重ねた生地への染料の浸透の度合いなどは、素材の種類、気温や湿度、わずかな作業のタイミングなどに左右されるため、経験豊富な職人の感覚が必要となる。独特の輪郭の滲みと染めムラが生む深みのある表情は、機械による均一なプリント染色では決して味わえないもの。日本にしかないそのユニークな魅力に、改めて目を向けてみたい。

文、編集井出幸亮

写真深水敬介

動画: cubism